トピックス

エルスワイ・アーカイブスの活用

適切なリスクマネジメントのために

 エルスワイ・アーカイブス (Elsewhy Archives) とは、災害や事故が発生しなかった理由を記録・共有するための「未然知の宝庫」です。これは、現場において「何も起きなかった」ことの背後にある、兆しや感性、工夫、場の気配といった未然知を、詩的かつ構造的に保存することにより、多くの方々から気づきとして活用していただくことが目的です。

エルスワイ・アーカイブス (Elsewhy Archives) とは

 エルスワイ (Elsewhy)とは、「なぜ起きなかったのか」という問いに対する、非顕在的な知の記録です。形式知ではなく、感性や象徴、物語として知覚されるものであり、未来の安全設計における指針となります。

 エルスワイ・アーカイブスでは、以下のような未然知を収集・編集・保存します。

1) 兆しの記録
風の音、作業者の沈黙、道具の配置など、場に宿る微細な変化を記録します。

2) 工夫の記述
設計変更や作業順序、注意喚起など、意図的または偶発的な工夫を記述します。

3) 感性の編集
作業者の直感や違和感、安心感など、言語化されにくい知覚を編集します。

4) 詩的な構造化
記録は文章や図、比喩、物語など、詩的な形式で保存します。

 エルスワイ・アーカイブスを、SPUS 有用安全考房の4つの原則である「リスクアセスメント」「リスクリダクション」「コーディネーション」「しながわセーフティ」と連携させて、以下のような活用に展開します。

・災害が起きなかった理由を対話的に探る場として活用します。

・安全設計における未然知の診断項目や評価指標として導入します。

・好事例の背後にある静かな知を詩的な事例集として共有します。

必然性を適正に評価する文化の醸成

 エルスワイ・アーカイブスは、安全の魂に耳を傾ける技術です。起きなかったことに意味を見出し、未来の災害・事故を未然に防止するための静かな知の宝庫として機能します。そして、災害・事故が起きなかったことの必然性が、適正に評価される文化を醸成していきます。

2025年10月01日

アフォーダンス・アプローチの適用

適切なリスクリダクションのために

 リスクリダクションでは、単に危険性を除去するだけでなく、人が自然に安全な行動を選べるようにすることが重要です。知識や訓練だけでは限界があり、環境が「安全な動き」を誘導する力を持っていなければ、リスクは残り続けます。

 この課題に対して、環境が持つ「誘導性(アフォーダンス)」に着目し、行動が無理なく安全へと導かれるように設計・評価するのがアフォーダンス・アプローチです。これは知覚心理学やデザイン理論を統合した実践的な枠組みであり、リスクリダクションにおいて非常に有効です。

 アフォーダンス・アプローチは、行動の自然性、環境との調和、直感的な安全性の確保など、適切なリスクリダクションのために欠かせない視点を提供します。

アフォーダンス・アプローチ (Affordance Approach) とは

アフォーダンス・アプローチは、米国のジェームズ・ジェローム・ギブソンの知覚理論に基づき、環境が人に提供する「行動の可能性」に注目した方法です。現代では安全設計、教育、福祉など多様な分野に応用されています。

1) 誘導性の重視
環境が自然に行動を促す力(アフォーダンス)に注目する

2) 関係性の知覚
人と環境の相互作用を通じて、意味ある行動が生まれることを理解する

3) 状況依存性
行動は文脈に依存し、同じ環境でも状況により異なるアフォーダンスが生じる

4) 直感的な理解
言語や理論よりも、身体的・感覚的な理解を重視する

5) 自然な安全性
安全な行動が「努力なく」選ばれるように環境を整える

6) 実体との接触
抽象的な説明よりも、実物との接触を通じて理解を深める

7) 選択の支援
人が自ら安全な選択をできるよう、環境が支援する設計を目指す

 アフォーダンス・アプローチにより、以下のメリットが得られます。

・安全行動が自然に選ばれる環境を設計・評価できる

・リスクリダクションにおいて、机上の理論では見えない「誘導性」に気づける

・現場の直感的な理解を促進し、チームの安全文化を育てる

実践診断 (Diagnosis of PRACTICE for Implemented DEVISALs)

 安全性・生産性・経済性のバランスを図るには、設計における工夫(DEVISALs)の妥当性(REASONABILITY)を見極めることが重要です。SPUS 有用安全考房の実践診断は、アフォーダンス・アプローチの視点を取り入れ、使用環境との関係性に着目しながら、機械装置の仕様と設計意図を評価します。

 実体モデルを用いた診断では、機械装置が自然に安全行動を誘導するかどうかを体験的に確認し、生産性・経済性の指標を通じて妥当性(REASONABILITY)を見える化します。診断結果に応じて、信頼性・利便性に優れた好事例(EXEMPLAR)には、独自の実例標章(PARADIGM MARK)を発行し、設計技術の価値を広く共有します。

2025年09月01日

ゲシュタルト・アプローチの適用

適切なリスクアセスメントのために

 リスクアセスメントでは実施する人の知識と技能が試されます。経験を基にすることは多いですが、過去のトラウマが未解決の問題を抱えている場合には、適切なリスクアセスメントが行えません。もちろん気づかない場合もありますが、心理的に「無意識の隠蔽」が悪く働く場合も多いといえます。

 この状況を解決するためには、本来は過去の経験を活かすべきところを、今・ここの現実に焦点を当てて、感情や行動などの自己理解を深めて、対処することが重要です。この考え方がゲシュタルト・アプローチ (Gestalt Approach) で、心理学や現象学などを統合したゲシュタルト療法の基礎になっています。

 ゲシュタルト・アプローチの自己意識の向上、コミュニケーションの活性化、リーダーシップの発揮などは、適切なリスクアセスメントのために必要な要素になっています。

ゲシュタルト・アプローチ (Gestalt Approach) とは

 ゲシュタルト・アプローチは、独国のフリデリック・サロモン・パールズらによってゲシュタルト療法として発展し、現代の様々な心理療法や自己啓発に影響を与えています。

1) 全体性の重視
個々の要素ではなく、全体として知覚や経験を重視する

2) 図と地
ある要素が前面(図)に出て、他の要素が背景(地)になる関係性に注目する

3) 現在(今ここ)の重視
過去や未来ではなく、現在の体験に焦点を当てる

4) 気づき (Awareness) の促進
自己や環境への意識的な気づきを促進する

5) 変容のパラドックス (Paradox)
変容は自分自身をあるがままに受け入れた時”のみ”に起こる

6) 体験の強調
理論的な分析よりも、直接的な経験や実験を通じた学びを重視する

7) 応答する力と選択
環境に対して自らが対応していく力を自覚する重要性を強調する

 ゲシュタルト・アプローチにより、以下のメリットが得られます。

・自分自身についての理解を深め、成長させ、創造性を高める

・コーチングの実践に新たな深みを加え、効果的なリーダーシップを発揮する

・自己の意識を高め、部下や同僚とのコミュニケーションを豊かにする

実感研修 (Actual Feel STUDY by Realistic Virtuality)

 全体性の重視、図と地の関係性、今ここの重視、気づきの促進、直接的な体験や実験を通じた学びなど、リスクアセスメントにおける特に危険源・危険状態・危険事象を同定する段階では、ゲシュタルト・アプローチは非常に有効です。実感研修で培われる暗黙知を繰り返し実践することにより、「無意識の知恵」として身についていきます。

 SPUS 有用安全考房の実感研修は、ゲシュタルト・アプローチの考えを取り入れ、リスクアセスメントの対象とする機械装置の実体モデルをベースに機械装置の仕様を仮想化し、俯瞰による全体感と実体験による気づきを深めていく、有効性の高い実践的な研修です。

2025年08月01日

トリクルアップを目指す しながわセーフティ

しながわセーフティ ~ SHINAGAWA SAFETY ~ とは

 SPUS 有用安全考房 (Study and Practice of Useful Safety) 【エスパス】 は、中小企業の競争力向上と設計者の気概の醸成を支援するため、多様なコミュニケーションをベースにする独自のリスクアセスメント手法を考案いたしました。その手法を活用して、機械装置の有用性を最大化する活動を展開しています。 SPUS 有用安全考房の独自の手法は、東京都品川区が推進する中小企業支援事業の活動において、様々な業種に対して試行した実践経験から生まれたものです。

 一つ一つの実績の積み上げに協力していただいた中小企業と自治体に敬意を表し、実例標章 (Paradigm Mark) のサブタイトルを「しながわセーフティ ~ SHINAGAWA SAFETY ~」と命名いたしました。この手法を全国へ向けて展開する際にも、有用安全 (Usefu Safety) のブランド名として「しながわセーフティ ~ SHINAGAWA SAFETY ~」を展開いたします。

 リスクアセスメントとリスクリダクション、それ自体が暗黙知をベースに実践されるものですが、SPUS 有用安全考房の手法も暗黙知をベースにしています。実践するためには相応の時間を必要としますが、実効性のあるリスクアセスメントとリスクリダクションを創出できるため、将来に渡って安心を享受できる最も手軽な手法です。

 国内では機械安全は大企業から始まりましたが、20年近くが経過しても中小企業へ安全技術が浸透しているとはいえず、機械安全のトリクルダウンは残念ながら期待できない状況です。SPUS 有用安全考房は、「しながわセーフティ ~ SHINAGAWA SAFETY ~」を基に、品川発の機械安全を国内の中小企業向けに展開するとともに、未だに取り組みが始まっていない大企業に向けて、機械安全のトリクルアップを目指して活動していきます。そのためにも、好事例 (EXEMPLAR) を発掘しつづけます。

2025年07月01日

SPUS 有用安全考房のロゴマーク

 

レッド:ホットなプロセス

 SPUS 有用安全考房のロゴマークは、平和の象徴であるイルカをモチーフにしています。通常、安全に関係する色彩は、グリーンやブルーを基調としている場合が多いですが、有用安全は安全性だけでなく利便性や経済性を満足することが重要と考えており、活発に議論しながら方向を定めていくホットなプロセスを示すため、レッドの背景を基調とするロゴマークを創作しました。

イルカ:アクティブな活動

 真っ赤に染まる夕空を背景にして、イルカが跳ね上がっているように、SPUS 有用安全考房はアクティブな活動を展開します。

2025年01月01日

SPUSを運営する ぴくはりさーち の安全性とは?

 

ぴくはりさーちが取り組む'ON-SAFE STyLE'

 ぴくはりさーち (PeaCooHa Research) は産業用の機械装置を対象として、ISO 12100 機械類の安全性に基づく安全設計技術と、ISO/IEC 17050 供給者適合宣言に基づく安全品質経営に関するコンサルティングを提供しています。商標 第6698674号 'ON-SAFE STyLE’のコンセプトである「安全な状況でのみ動かせる様式 (Style of Run only on Safe Status)」 に基づいて、安全設計技術においては本質的安全設計方策 (Inherently Safe Design Measures)と補完的保護方策(Complementary Protective Measures)の適用を最重要課題に位置付けています。

'ON-SAFE STyLE'の技術的な要素

 'ON-SAFE STyLE’には、機能に関するエナジーフローの自然仕掛け、制御に関するコアクティブモードの機械仕掛け、行動に関するストレスフリーの人為仕掛けの3つの要素があります。

1.エナジーフロー (Energy Flow)

 エナジーフローはエネルギーの自然な流れを指し、物理的な流れの方向や速度を自然の原理に合わせ、機械の作動と人の行動を確定的にするために必要です。

2.コアクティブモード (Coactive Mode)

 コアクティブモードとは機械の運転モードと安全モードを合わせる共奏モードのことで、制御システムに正しく設定されることが必要です。運転モードから独立した安全モードが運転状態を常時監視しながら逐次介入することにより、全ての運転モードにおいて確定的な安全性を確保することができます。

3.ストレスフリー (Stress-free)

 もともと人は楽な方を選択する習性(近道行動)があります。心に生じている負担や苦痛からの解放=ストレスフリーが感じられる保護方策を自然な姿で機械に織り込むことが重要です。一般的に近道行動により手抜きが行われますが、手抜きができる手順を選択すると、最終的に負担が増えて遠回りになるような手順を意図的に設定し、それを使用上の情報として認識させて、どの手順が近道なのか身体の感覚で理解させることが重要です。

 これらの要素を同時に組み合わせることにより、オペレーターが無意識に操作する、いわゆる自然な成り行きのまま機械を安全に運転や操作ができる状況を作り出します。機械と人に自然の要素を加えるアプローチが、有用安全を実現するための秘策ということです。

SPUS 有用安全考房での実践

 ぴくはりさーち (PeaCooHa Research) は、機械安全を産業界の底辺から頂上に向けて普及・浸透させるため、小規模事業者や中小企業への支援に特化したSPUS 有用安全考房を設立し、各分野の識者との協業で運営しています。有用安全 (Useful Safety) とは、学問としての机上の論理や国際規格に留まらず、企画から稼動までの間に過去の教訓や経験を駆使して、安全性と経済性を高いレベルで両立させる実践的な安全技術のことです。

2024年10月16日

なぜ今、有用安全なのか?


2007年から機械安全が努力義務化

 2001年に厚生労働省より発令された「機械の包括的な安全基準に関する指針」は、2006年の労働安全衛生法の改正に合わせて、2007年に第2版へ改正されています。同指針は「ISO 12100 機械類の安全性-設計の一般原則-リスクアセスメント及びリスク低減」に基づいており、機械装置に対するリスクアセスメントが始まってから17年が経過しました。

大手企業での着実な進展

 同指針は機械メーカーや機械ユーザーが所属する多くの産業団体に向けて発令され、各産業団体に加盟する大手企業では、機械安全を日常業務や安全活動として取り組んできました。その流れに合わせて安全コンポーネントの商品化が進み、高性能・多機能で安価なものが入手できるようになり、機械装置の安全化は着実に進んでいます。

道具として使われる機械類

 しかし、主たる保護方策はガード・インタロックなどの安全防護であるため、対象とする機械装置は無人・自動で稼動できるものに留まっており、有人・手動で稼動する機械装置の安全化は思ったように進んでいません。同指針が産業団体に所属する比較的規模の大きな企業に向けて発令されたこともあり、安全防護が適用しにくい機械装置の多くを製造している中小企業メーカーでは、安全化の取り組みは未だに低調です。

有用安全考房の使命

 安全防護を適用できない有人・手動で稼動する機械装置では、人間工学を考慮した本質的安全設計方策と補完的保護方策が必要で、そのような保護方策が中小企業メーカーへの機械安全の普及に繋がります。この課題に取り組むため、新たに設立する団体が私たちSPUS 有用安全考房で、機械安全を適用する機械装置の対象範囲を拡大し、中小企業メーカーの競争力向上を支援していきます。

2024年07月01日

SPUS 有用安全考房の設立

 

SPUS【エスパス】

 SPUS は Study and Practice of Useful Safety の各単語の四つの頭文字からなる略称で、日本語の呼び名は【エスパス】です。

二つの活動目的

 SPUS 有用安全考房は、豊富な実務経験を有する技術者が参加している任意団体です。その経験を技術者の研修と機械装置の診断に活かし、産業用の機械装置の製造を生業とする中小企業メーカーの競争力を向上させることを第一の目的としています。

 機械には様々の種類があり、国際規格の規定要求だけでは合理的な方策を見つけることは容易ではありません。個々の機械の特徴に合わせた実現可能な方策が選択できるよう、対等な議論を活発に行い、技術者自身の実務能力を高めることを第二の目的としています。

なぜ「考房」なのか?

 SPUS 有用安全考房は、なぜ名称を研究 (Study) と実践 (Practice) ではなく「考房」としているのでしょうか?

 幸運と安心を得るためには工夫 (DEVISALs) が必要になりますが、その工夫は事務机 (Simulation) ではなく作業台 (Prototype)で生まれることを表しています。有用性は現実 (Reality) を追求することで生まれるため、コンピューターシミュレーションが盛んな現代型のデータサイエンス (Data Science) よりも、試行錯誤を繰り返して築き上げる普遍型のクラフトサイエンス (Craft Science) が、適切なアプローチであるといえます。

 SPUS 有用安全考房はものつくりの「工房」ではありませんが、機械装置というものつくりのための考え方を創造する団体として、世の中の工房で日々行われている創作活動と同じ進め方を踏襲しているため、「考房」という名称にしています。

一緒に活動しませんか?

 SPUS 有用安全考房では機械装置に適用する工夫 (DEVISALs) が商品ですので、所属する技術者には機械系や電気制御系の設計経験があります。安全性を追求するために安全技術は必要ですが、設計技術があってこそ安全性を具現化できることは言うまでもありません。

 日本の産業を底辺から支える中小企業の発展のため、SPUS 有用安全考房の理念「ちょっとした工夫で幸運と安心を. (Little DEVISALs ensure Luck & Ease.) 」に、賛同していただける皆様の参加をお待ちしております。

2024年06月01日