アフォーダンス・アプローチの適用

適切なリスクリダクションのために

 リスクリダクションでは、単に危険性を除去するだけでなく、人が自然に安全な行動を選べるようにすることが重要です。知識や訓練だけでは限界があり、環境が「安全な動き」を誘導する力を持っていなければ、リスクは残り続けます。

 この課題に対して、環境が持つ「誘導性(アフォーダンス)」に着目し、行動が無理なく安全へと導かれるように設計・評価するのがアフォーダンス・アプローチです。これは知覚心理学やデザイン理論を統合した実践的な枠組みであり、リスクリダクションにおいて非常に有効です。

 アフォーダンス・アプローチは、行動の自然性、環境との調和、直感的な安全性の確保など、適切なリスクリダクションのために欠かせない視点を提供します。

アフォーダンス・アプローチ (Affordance Approach) とは

アフォーダンス・アプローチは、米国のジェームズ・ジェローム・ギブソンの知覚理論に基づき、環境が人に提供する「行動の可能性」に注目した方法です。現代では安全設計、教育、福祉など多様な分野に応用されています。

1) 誘導性の重視
環境が自然に行動を促す力(アフォーダンス)に注目する

2) 関係性の知覚
人と環境の相互作用を通じて、意味ある行動が生まれることを理解する

3) 状況依存性
行動は文脈に依存し、同じ環境でも状況により異なるアフォーダンスが生じる

4) 直感的な理解
言語や理論よりも、身体的・感覚的な理解を重視する

5) 自然な安全性
安全な行動が「努力なく」選ばれるように環境を整える

6) 実体との接触
抽象的な説明よりも、実物との接触を通じて理解を深める

7) 選択の支援
人が自ら安全な選択をできるよう、環境が支援する設計を目指す

 アフォーダンス・アプローチにより、以下のメリットが得られます。

・安全行動が自然に選ばれる環境を設計・評価できる

・リスクリダクションにおいて、机上の理論では見えない「誘導性」に気づける

・現場の直感的な理解を促進し、チームの安全文化を育てる

実践診断 (Diagnosis of PRACTICE for Implemented DEVISALs)

 安全性・生産性・経済性のバランスを図るには、設計における工夫(DEVISALs)の妥当性(REASONABILITY)を見極めることが重要です。SPUS 有用安全考房の実践診断は、アフォーダンス・アプローチの視点を取り入れ、使用環境との関係性に着目しながら、機械装置の仕様と設計意図を評価します。

 実体モデルを用いた診断では、機械装置が自然に安全行動を誘導するかどうかを体験的に確認し、生産性・経済性の指標を通じて妥当性(REASONABILITY)を見える化します。診断結果に応じて、信頼性・利便性に優れた好事例(EXEMPLAR)には、独自の実例標章(PARADIGM MARK)を発行し、設計技術の価値を広く共有します。

2025年09月01日